2009年12月31日木曜日

2010年は「介護新時代」の「はじめの一歩」

政府は 昨日の臨時閣議で 持続的な経済成長をめざした新成長戦略の基本方針「輝きのある日本へ」を決定しました。
しかし「関係府省が持ち寄った案をまとめた新味のないアイデア」「抽象論で具体的な政策に踏み込んでいない」など メジャー各紙の反応は冷ややかです。
医療と介護を合わせた「健康」分野の戦略は
ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
【2020 年までの目標】『医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出・新規市場約45 兆円・新規雇用約280 万人』

です。主な中身は
(医療・介護・健康関連産業を成長牽引産業へ)
…世界のフロンティアを進む日本の高齢化は ライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)を力強く推進することにより新たなサービス成長産業と新・ものづくり産業を育てるチャンスでもある。したがって高い成長と雇用創出が見込める医療・介護・健康関連産業を日本の成長牽引産業として明確に位置付けるとともに 民間事業者等の新たなサービス主体の参入も促進し 安全の確保や質の向上を図りながら 利用者本位の多様なサービスが提供できる体制を構築する。誰もが必要なサービスにアクセスできる体制を維持しながら そのために必要な制度・ルールの変更等を進める
(アジア等海外市場への展開促進)
医療・介護・健康関連産業は 今後 高齢社会を迎えるアジア諸国等においても高い成長が見込まれる。…
(地域における高齢者の安心な暮らしの実現)
医療・介護は地域密着型のサービス産業であり 地方の経済・内需を支えている。住み慣れた地域で生涯を過ごしたいと願っている高齢者は多く 地域主導による地域医療の再生を図ることが これからの地域社会において重要である。具体的には 医療・介護・健康関連サービス提供者のネットワーク化による連携と情報通信技術の活用による在宅での生活支援ツールの整備などを進め そこに暮らす高齢者が自らの希望するサービスを受けることができる社会を構築する。高齢者が安心して健康な生活が送れるようになることで…新たなシニア向けサービスの需要も創造される。また高齢者の起業や雇用にもつながる

となっています。
悲観的に考えるのではなく これまで取り上げられなかった介護の成長産業化が明示された意義を評価しましょう。
2010年6月に示される予定の「工程表」で より具体的な道筋が示されるよう 私も力を尽くしたいと思います。
新しい年が「介護新時代」の「はじめの一歩」となることを期待したいと思います。

2009年12月25日金曜日

生活援助一律排除のあきれた自治体に3度目の通知

本日 厚労省老健局振興課から 各都道府県介護保険主管課に向けて
「同居家族等がいる場合における訪問介護サービス等の生活援助の取扱いについて」
の通知が発出されました。
生活援助の取扱いについては
「適切なケアプランに基づき 個々の利用者の状況に応じて具体的に判断されるぺきものであるにもかかわらず 依然として同居家族等の有無のみにより判断されているという指摘がある」
ためです。
この振興課長通知では 各都道府県が市町村に対して
「生活援助等において同居家族等がいることのみを判断基準として 一律機械的にサービスに対する保険給付の支給の可否について決定することがないよう 改めて周知徹底」
することを求めています。
同趣旨の通知は 2007年12月20日と2008年8月25日に続いて なんと3度目になります。
保険者の勝手な判断が 事業者のみならず 最大の受益者たるべき利用者・顧客にまで大きな不利益を与え続けているという現実を どう受け止めればいいのでしょうか。

2009年12月18日金曜日

厚労相「世界一の介護ノウハウ」の輸出に言及

長妻昭厚生労働大臣は 昨日の日本経済新聞の単独インタビューに
「介護は利用者が今後すごく増える分野だ。日本の介護サービスにはノウハウがある。特許がとれる分野ではないか。これから先進国もみんな高齢化するわけで 特許を取ったら世界一の介護ノウハウを輸出するという発想も持てる。非常にビッグビジネスになる」
と答えています。
厚生労働省関係者が このような内容を公に発言したのは 初めてのことです。
年来の私の持論が認められ 意を強くしています。
介護事業は「金食い虫」ではなく「日本の経済成長と国民生活向上の牽引車」となる可能性を秘めているのです。
これに対して 常に守旧派は すわ「弱者切捨て」「福祉の心・ケアの後退」といった 的外れな非難を浴びせてきます。
社会保障や弱者対策といったセーフティーネットは 国や自治体の本来の義務であり その重要性が減ずるものでないことは当然です。

2009年12月17日木曜日

「キャリアパス」は事業者の創意工夫を尊重したものに

11日「介護職員のキャリアパスに関する懇談会」が開催され 介護職員処遇改善交付金の交付要件として 来年度以降新たに導入される「キャリアパス要件」について 関連団体や有識者へのヒアリングが実施されました。
この懇談会での議論などを参考に 来年3月末までに具体的な要件を決定する予定です。
私も14日に 所管の老健局振興課を訪問し 次のような意見を述べてきました。
○キャリアパス設定の目的は あくまでも「質の向上」にある
○これまで公表されてきたモデルは ほとんどが施設系団体の手によるもので 介護事業者の多くを占める 小規模事業者には適合しない
○新設される要件は 個々の事業者の創意工夫を尊重し「縛り」は設けてほしくない
○自治体の恣意的なローカルルールで 事業者を戸惑わせないでほしい

「手段が目的化」されないよう切望しています。

2009年12月14日月曜日

鳩山首相に提言しました

12月12日(土)鳩山由紀夫首相に レクチャーを行う機会を得ました。
首相が「全国ボランティアナースの会 キャンナス」の松戸支部を視察したときに 私も同行させていただいたためです。
同会の菅原由美代表・安西順子松戸支部代表とともに
●「看護師に1人開業権を認める」などの規制緩和が必要なこと
●介護や医療が「保険」事業だけにこだわらず「生活支援サービス事業」という新たな視点で 国民のニーズに応えることができれば 雇用だけでなく 社会的な富を増大させる 新たなマーケットを生み出す産業に変革できること

を説明しました。
首相も理解を示され 前向きな検討を約束していただきました。
視察終了後の記者会見でも
「キャンナス あの看護師さんの方々がね ボランティアでいいお仕事をされて 今まで公的な支援というのは介護がしっかりとやるんだけれども 公的な支援になかなか入らない生活支援のものがたくさんあるんです。そういう生活全般にわたる支援をしようとしても国の支援策がない。そこで 自分たちが手弁当でやらなきゃいけない。ある意味ではものすごくいい仕事をされているのにそういうところにうまく合うような支援策がないという思いを感じましたから ここもしっかりとですね 私は手当をする必要があると思っております」
と首相は発言され 大いに意義があったと感じています。

2009年12月4日金曜日

理不尽なローカルルール

政府が経済危機対策の一環として「介護基盤緊急整備特別対策」(3年で合計約3,000億円の事業規模)を実施して 特養やグループホームなどの施設整備を積極的に推進していることはご存知のことと思いますが 現在その活用は進んでいません。
制度がわかりにくく そのための要綱などの整備が煩雑なため 自治体の動きが悪いという点が その要因のひとつです。
対策の趣旨を理解し 積極的な活用をぜひ望むところですが 誤った理解をしている自治体があるのも事実です。
たとえば「介護基盤緊急整備等臨時特例交付金」では 小規模多機能やグループホームについては 従前は1か所当り1,500万円だった整備費の補助額が2,625万円に上乗せされていますが その対象を社会福祉法人や医療法人等の非営利法人に限定している市町村があります。
厚生労働省老健局の高齢者支援課に確認しても「国は民間企業を排除しているわけではない。そのような指導を行っている市町村があるとは承知していなかった」と述べています。
不況対策という事業目的を全く理解しない自治体の「理不尽なローカルルール」には 事業者自らが 声を上げていかなければなりません。

2009年12月3日木曜日

経済的理由で4割が有料老人ホームに入居できず

日本政策投資銀行は「民間病院の経営環境と高齢化社会へ向けた対応」と題したレポートで 2035年の介護施設利用者は 2008年時点に比べて約136万人増加すると見込んでいます。
同レポートによると 介護施設の利用者は 2035年にかけてすべての都道府県で増加が見込まれますが 介護保険3施設は 財政的な制約により 今後大幅に増加することは想定しづらいと指摘しています。
そこで 施設需要への対応としては 有料老人ホームなどの増加が期待されますが このうち39.8%の人が 経済的な問題から 有料老人ホームへの入居が困難となる可能性があるとしています。
平均的な有料老人ホームの利用者負担月額(19万円)が 介護保険3施設(平均6万9000円)と比べて高額だということが理由です。
昨日のブログに書いた療養病床の問題もそうですが 在宅誘導のためには「住」が最も大きな解決課題のひとつです。
政府には わかりづらい高齢者住宅施策の整理を速やかに望みます。
一方 事業者にとっては ニーズに対応したサービス提供が 大きなビジネスチャンスとなります。

2009年12月2日水曜日

マニフェストと国民の利益の関係

日本慢性期医療協会は11月27日 毎日新聞の社説「療養病床削減計画を実行せよ」(11月23日)に対して意見表明を行いました。
社説は 長妻昭厚生労働大臣が 民主党がマニフェストに掲げた「療養病床の削減計画の凍結」を改めて表明したことに関して「脱社会的入院の観点から理解できない」とするものです。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20091123k0000m070110000c.html
これに対し同協会は「療養病床」についての社説には 一部に誤解と偏見があるとしたうえで
○ 2006年7月から導入となった医療区分により 急性期病院の人工呼吸器患者や重度の後遺症の患者など長期入院患者の入院が増え「社会的入院の温床」とは呼べない状況になっている
○ 最近の療養病床には 生死を境とする重度患者が多く 一般病床にも療養病床にも慢性期の医療が必要な患者が増えてきている
○ 膨大な数の疾病を抱えた高齢者への対応は 在宅サービスだけでは限界があり 療養病床数を増床させない政策のままであれば 社会的要請にとても応えられない
と訴えています。
http://jamcf.jp/chairman091126.html
「マニフェスト至上主義」は妥当なのか 在宅中心のサービス提供体制への道筋はどうつけるのか そして国民の受益と負担の観点から もう一度 議論を行うべきです。

2009年11月30日月曜日

眠っている人的資産を活かす

昨日の日本経済新聞の「歌壇」に
「公園の草取り仕事に精をだす水車を作る技持ちながら」
という入選作がありました。
介護や生活支援の分野でも 看護師・ヘルパー・保母などの有資格者の掘り起しが叫ばれています。
退職や子育てのために 潜在能力を活かせない人的資産は 質・量とも相当のものであると推測されます。
少子高齢社会が活力のある豊かなものであるためには 見逃せない視点です。
そのためには 既得権にがんじがらめになっていたり 既存の制度の枠にとらわれていてはいけません。
「地域を核」に「顔の見える人間関係を再構築する」新しい試みを許容する土壌が必要です。
「なぜ 介護支援専門員は介護保険サービスを組み込まないと報酬が発生しないのか」
「なぜ 国家資格を保有している看護師が一人で開業できないのか」
素朴な疑問を改革につなげていきましょう。

2009年11月27日金曜日

「事業仕分け」は政治ショー!?

25日に行政刷新会議の事業仕分けのワーキンググループの討議を傍聴しました。経済産業省が予算要求しているあるプロジェクトに弊社が関与しているからです。
メディアにも連日取り上げられることもあって 国民の関心も高く 予算決定のプロセスを可視化するというもくろみは成功といってもいいでしょう。
しかし わずかな時間で事業の意義を理解し 判断を下すというのは乱暴すぎます。
ノーベル賞受賞者らが抗議の声明を発したように「はじめに削減ありき」の政治的パフォーマンスといわれても仕方がありません。
国益の観点から 仕組みの見直しを強く願います。

2009年11月25日水曜日

プロの仕事

先週 東京都が主催する「福祉保健を考えるセミナー」が「もっと知ろう!福祉サービス第三者評価 調べてみよう!それぞれのサービス」というテーマで開催されました。私も「福祉サービス第三者評価の活用~それぞれの立場から~」というパネルディスカッションに 福祉サービス第三者評価者の立場で パネリストとして参加しました。
ディスカッションは 2か所の特養の実際の評価結果を比較するという形で進められました。双方とも たいへん優れた取り組みを行っている施設で 評価結果も上々です。しかし 評価の内容 特に講評(コメント)を詳細に比べてみると 大きな違いがあります。
たとえば「移動の支援」という項目についてみると 一方のコメントは
「入所時に作成される『施設利用者個人台帳』や担当ケアマネージャーによるアセスメントシートに、在宅での移動方法について詳細に記載され、入所後にも安楽・安全に移動して頂けるよう活用している。それに基づいて機能訓練指導員を中心とした各専門職が連携を取り、利用者の身体状況の変化に応じて本人や家族と共に相談・検討し日々の支援に反映している」
というのに対し もう一方のコメントは
良い姿勢が保たれるように理学療法士が確認して、利用者の状況に合った車椅子を用意している。また、車椅子のクッション、離床センサー等の福祉用具についてもミーティング時に検討し、適切なものを選択・導入している。歩行介助においてもリハビリを意識した移動を心掛け、身体状況によっては2人で介助する体制を整えたり、準職員に対する研修や用具の定期点検を実施して、移動時の安全確保に努めている」
と記述されています。
明らかに 後者の講評のほうが「具体的で明確だ」と お分かりになるでしょう。
これが評価者の力量の差です。「プロの仕事か否か」は 如実に表われるものです。

2009年11月20日金曜日

親の介護に対する支出は親からもらった額の半分!?

電通が 高齢の親を持つ45~64歳の人を対象にした「親の高齢化・介護に関する意識調査」結果を発表しました。
今年9月に 高齢の親を持つ全国800人に インターネットで行ったもので「親に介護が必要になったとき心配なこと」という問に対しては「経済的負担が増える」「どれだけ費用がかかるか不明」と経済的な要素を心配する声が 特に男性に多く(56.5%)みられました。
さらに 全体の54%が「親に介護が必要になったとき自分が頼られる」と覚悟はしているものの「負担してもよい」と考えている出費は「月額2万円くらいまで」という結果でした。
月2万円では なんとか要介護2の1割負担がまかなえる程度でしかありません。
一方 同じく9月に 財団法人家計経済研究所が実施した「消費生活に関するパネル調査」では「子ども夫婦に対する親からの経済的援助の有無」についてたずねています。
結果は「妻の親から援助を受けている割合」は11.1%で「夫の親から援助を受けている割合」は14.6%でした。また「妻の親からの平均援助額」は一か月当たり34,200 円 「夫の親からの平均援助額」は一か月当たり44,600 円です。
子どもに4万円援助しても その半分しか助けてもらえない というのが悲しい現実です。

2009年11月9日月曜日

一人ケアマネは質が低い!?

先日 日本在宅介護協会(在宅協)東京支部セミナー「事業者としてのケアマネジャーの連携」に参加しました。そのシンポジウムの中で 興味深いやりとりがありました。
まず 日本介護支援専門員協会会長の木村隆次氏が「居宅介護支援事業所は複数で できれば特定事業所加算が取得できる3名以上のケアマネジャー(プラス事務職)で運営すべき」という持論を展開しました。
これに対して 立教大学教授の服部万里子氏は「居宅介護支援事業所は地域と密接な関係にあり 大規模化がすべてにおいて優先するというのはおかしい。一人ケアマネだから質が低いということはなく 専門性こそが大切だ」と反論しました。
この点に関しては 私は服部氏に賛成です。
服部氏はまた「居宅介護支援事業所は 星の数ほどあっていい」とも述べました。
利用者本位の介護・医療サービスを実現しようと思うなら「日本中に星降るように」居宅介護支援事業所と訪問看護ステーションを誕生させるべきではないでしょうか。

2009年10月27日火曜日

中医協「日医外し」で再開

昨日 長妻昭厚生労働大臣は 10月1日で任期が切れた中央社会保険医療協議会(中医協)の委員9人の後任人事を発表しました。
これまで3人いた日本医師会(日医)の推薦委員はゼロとし 代わりに安達秀樹京都府医師会副会長・嘉山孝正山形大医学部長・鈴木邦彦茨城県医師会理事の3人を起用しました。
長妻厚労相は 今回の人事の狙いについて「医療再生が大きな目標」と述べ 意図的な「日医外し」を否定しています。
しかし 自民党の支持母体で開業医の発言力が強い日医の影響力を薄め 8月の衆院選で民主党候補を応援した茨城県医師会など民主党を支持する関係者を選んだことは明らかです。
完全にストップしている来年4月の診療報酬改定をめぐる議論が ようやく動き出すことになります。
同様に 5年ごとの見直しが滞っている介護保険関係の社会保障審議会の介護保険部会や給付費分科会の委員についても 政権交代の影響が予想されます。

2009年10月6日火曜日

不況時の受け皿から経済貢献モデルへ

昨日 鳩山由紀夫首相が緊急雇用対策本部を設置する考えを明らかにしました。短期的対策としては 職業訓練の充実や雇用調整助成金の要件緩和などを検討する模様です。
中長期の雇用創出政策では 介護事業を受け皿にする方針です。
対策として 職員の処遇改善にスポットが当てられるようですが 喜んでばかりはいられません。
不況時の緊急避難的な受け皿にとどまるようなら「いつか来た道」で 景気が上向けば また人材は逃げていきます。
政府には 財源の手当ても見越した恒久的な施策を望みます。
また 事業者側も一体となって 労働生産性・付加価値の向上を図り 介護が経済へ貢献する事業であるという成長モデルを示す努力が不可欠です。

2009年9月16日水曜日

新厚生労働大臣に「ミスター年金」

新政権の厚生労働大臣に長妻昭氏が決定しました。
同氏の国会における「消えた年金」問題への切り込みは鋭く 民主党躍進の原動力の一因となったことは疑いありません。そういう意味では 官僚からは不安や懸念の声が上がるでしょうが 厚労相就任に違和感を抱く国民は そう多くはないでしょう。
ご承知のように 厚生労働省の所管は多岐にわたっており 社会保障の分野に限っても年金だけが課題ではありません。長妻氏の介護分野についての言及は寡聞のため うかがい知ることはできません。
「すべての課題に精通している政治家をトップに」とは思いませんが 就任後の方針には注目せざるを得ません。不正や無駄の追及は 透明な行政に欠かせないもので大いに結構ですが それだけで国民への責任は果たせません。
喫緊の課題である医療・介護の先行きを速やかに明らかにしてもらうこと「破壊」ではなく「創造」的な厚生労働行政の確立を望んでやみません。

2009年9月8日火曜日

介護疲れの夫の殺人未遂の裁判員裁判がスタート

先月から いよいよ裁判員裁判がスタートしました。
本日 山口地裁では「介護疲れ」が動機で夫が妻を刺したとされる殺人未遂事件の審理が始まりました。
殺人未遂罪で起訴されたのは 山口県周南市の63歳の無職の夫です。起訴状によると 5月15日午前2時10分ごろ 自宅寝室のベッドで寝ていた妻(60歳)の首を包丁で1回刺して殺害しようとした疑いが持たれています。
被告は長年にわたり被害者の介護を続ける中で犯行に及び 犯行後 自殺も図ったとされています。被告の弁護人は 殺意を含め事実関係は争わず 被告に有利な事情をくみ取るよう求める構えで 執行猶予を求めるものと思われます。
これに対し 検察側は 同種事件の発生を防ぐためにも 刑を軽くすべきでないなどと主張するとみられます。
事実関係には争いがないため 争点は量刑ということになります。
一般市民から選ばれた裁判員が 介護問題と向き合いながら 裁判官とともにどう考え どのような判決を出すのか注目されます。
判決は 明日午後 言い渡されます。

2009年8月31日月曜日

今日から読むマニフェスト

初めての政権交代がなりました。
政権党の介護分野のマニフェストは次の通りです。
25.介護労働者の賃金を月額4万円引き上げる
【政策目的】○全国どこでも、介護の必要な高齢者に良質な介護サービスを提供する。
○療養病床、グループホーム等の確保により、介護サービスの量の不足を軽減する。
【具体策】○認定事業者に対する介護報酬を加算し、介護労働者の賃金を月額4万円引き上げる。
○当面、療養病床削減計画を凍結し、必要な病床数を確保する。
【所要額】8000億円程度
26.「障害者自立支援法」を廃止して、障がい者福祉制度を抜本的に見直す
【政策目的】○障がい者等が当たり前に地域で暮らし、地域の一員としてともに生活できる社会をつくる。
【具体策】○「障害者自立支援法」は廃止し、「制度の谷間」がなく、サービスの利用者負担を応能負担とする障がい者総合福祉法(仮称)を制定する。
○わが国の障がい者施策を総合的かつ集中的に改革し、「国連障害者権利条約」の批准に必要な国内法の整備を行うために、内閣に「障がい者制度改革推進本部」を設置する。
【所要額】400億円程度

私たちの選んだ政府が 私たちの望む政治を実践するかどうかは 私たちの手にかかっています。 

2009年8月20日木曜日

新型インフルエンザのリスクマネジメント

本日 弊社にFAXでマスクの注文書が届きました。介護サービス事業者だと勘違いしたのでしょう。みなさまの手許には 同様のセールスレターが何通も届いていることと思います。サプライヤーとしては 当然の営業活動でしょう。
舛添厚生労働大臣の「新型インフルエンザの第1波の本格的な流行が 既に始まっていたと考えていい」という発言も 今回は先走りとは感じられません。
リスクを「目的を阻害する要因」として捉えたとき「顧客利益の喪失」から「経営的なダメージまで」事業者としてなすべき備えはとられているでしょうか。
今夏は土石流などの自然災害もあって リスク対策の重要性を身にしみて感じられているのではないでしょうか。今回の新型インフルエンザそのものは未知のリスクですが リスクマネジメントの構造は変わりありません。
大流行は所与のものとして「いかに軽減するか」を予防的対策と事後的対策の両面から準備しておくことを中心とすべきでしょう。そのうえで「回避策」(リスクにできるかぎり巻き込まれない)と「移転策」(被害をこうむったときにいかに損害を他者と分担するか)も練っておくことです。
このような視点で「(使える)マニュアル」「報告-連絡-相談-確認の体制」を早急に見直してください。

2009年8月4日火曜日

合理的無知な国民の選択する未来は

先日 権丈善一(けんじょうよしかず)慶應大学商学部教授の「この国の今の状況で負担増のビジョンを示さない政党には拒否権を発動するべし」という演題の講演を聞きました。権丈教授は 社会保障国民会議の委員も務め「社会保障の機能強化を図るためには税と社会保険料の負担増が必要だ」ということを明快かつ力強く論じる学者です。
教授はこの日の講演で「投票者は 合理的に行動する結果 日常的にはさほど必要度の高くない公共政策には無知になる」として これを「合理的無知」と呼びました。
投票者は 手軽に得られる情報でしかも理性よりも感情に訴えられた情報をもとに 公共政策に対して(ひとり一人がそれなりの)意見をもつことになります。
・メディアは この合理的無知な投票者に お手軽で感情に訴える情報を提供している。
・政治家は 合理的に無知な投票者に正しいことを説得することによって権力の地位をねらうことが正しい政治行為であるにもかかわらず 正しいことを説得する努力を放棄して(あるいは無知や誤解の度合いを増幅させて)無知なままの投票者に票田を求めて権力を追求するというポピュリズムに堕している。
と痛烈な批判を浴びせました。
なるほど言いえて妙と 大いに得心しました。

2009年7月28日火曜日

「幸福論」を語る医師に共感

26日「在宅緩和ケア支援センター」の研修会で 東京都大田区で在宅医療に取り組む鈴木央(ひろし)医師の講演を聞きました。「在宅緩和ケアにおける疼痛・輸液管理の考え方」という 医療従事者向けのテーマでしたが 在宅で看取りを行うにあたってスピリチュアルケアの重要性についての指摘には 大いにを共感を覚えました。
死を間近にして 人生(の目的・意味)や未来(時間)を喪失してしまったように感じてしまった人に医師としてどんな投げかけをするのか。
「(病院ではなく)家庭で家族から暖かい世話を受けているあなたを見ていると 私には少なくとも『不幸ではない』と思える」と話すと ほとんどの人が肯定的な反応を示して いま生きている意味や自己の存在に再び価値を見い出すようになる と話されました。
「在宅ホスピス」や「在宅での看取り」といわれるケアは「死を迎える」ためのものではない。今を 意味のある日々を生きるための営みのことであると実感させられました。
また こんなお医者さんが私たちの身近にいること さらにケア担当者を含めた専門家同士が手を携えていこうと提案されていることに心強さを覚えました。

2009年7月22日水曜日

事業者は新しい在宅ケアのあり方の提案を

東京都は 医療や介護が必要になっても高齢者が住み続けられる住まいの充実を図るため 診療所や訪問介護事業所など医療・介護系の事業所を併設した高齢者専用賃貸住宅のモデル事業(東京都医療・介護連携型高齢者専用賃貸住宅モデル事業)の公募を開始し 16日には事業者向け説明会も実施されました。
これに先立って UR(都市再生機構)が 都の担当者などを講師に招いて「高齢者向け住宅のこれから」と題したセミナーを開催しました。質疑の中で 参加者から「住宅型有料老人ホームや高専賃では 1人の介護員がある利用者をケアしている重要性を理解していない的外れなもので がっかりさせられました。
施設から在宅への方針の下 高齢者向け住宅の整備はもっとも大きな課題のひとつです。ハードの整備は経済的な効果も大きいとあって建設関係者の関心も高く 先行きは暗くないと考えられます。しかし そこで行われるケアについては「新しい在宅ケア」ゆえにクリアにすべき課題が山積しています。
これらの課題は モデル事業だけは解決はできません。ケアに携わる事業者が 国や自治体に対して 積極的に 利用者に資するケアのあり方や報酬体系の提案を行っていくことこそ 自らと顧客の利益につながる道筋であると考えます。

2009年7月20日月曜日

思いの強さが人を動かす

12・13日と愛媛県伊予市の双海町という人口4,800人の小さな町で 横浜から移住して地域医療に取り組んでいらっしゃる下灘診療所の諸橋正仁医師を訪ねました。
里山が海岸まで迫り わずかな平地と山頂付近まで 家々がへばりつくように点在しています。
行政の支援もほとんど期待できないような状況で「なぜ診療を続けてこられたのか」と尋ねると「理想とする在宅医療を実現するため」という答えが返ってきました。
夕食は 診療所の看護師さんだけでなく 社協のケアマネさん・ヘルパーさん そして患者さんのご家族まで加わってバーベキューのおもてなしを受けました。
感謝の念でいっぱいになったのはもちろんですが 16年間の諸橋さんの思いが地域のみなさんに確実に伝わっていることを実感しました。

2009年7月6日月曜日

技術研修から育成・教育へ

かつて「ものづくり」を中心とする日本企業が活力をもっていた大きな原動力のひとつに 企業内教育がありました。一人前の社会人になれたのは 会社のおかげだと感じている方も少なくないはずです。
学校教育の改革の必要性はもちろんですが 社会構造の変化に伴って 企業内教育の重要性も ますます大きなものになってきます。
福祉や介護の世界でも 研修のニーズは高いのですが 得てして技術研修にかたよりがちです。
サービス業中でも成長著しいコンビニ業界を見ても ローソンでは「ローソン大学」と名づけられた教育研修プログラムが セブン&アイホールディングスでは経営方針の浸透と教育を兼ねた「業革」と呼ばれる会議が20 数年続けられています。
これら企業の教育内容の特徴は
○ 育成に注力している人材は経営者候補層・ミドルマネジャーが中心
○ 階層に分けたプログラムの展開
○ 企業理念を徹底的に叩き込む(リーダーは企業理念の実践者)
○ 社長を含むトップマネジメントとの交流は必須
といった点にあります(経済同友会『第16 回企業白書~「新・日本流経営の創造」~』より)。
旧来型の会社一辺倒の人間ではなく 生活実感に裏打ちされた新しい価値観を持った組織人を トップが先頭に立って育成していく気概が求められます。

2009年7月1日水曜日

なんでもアリなら

今朝の毎日新聞に「麻生首相:東国原知事の入閣で調整 分権改革担当を検討」という見出しが躍っています。政権与党の無節操には あきれるばかりです。
トップのリーダーシップはもとより 他の議員のフォロワーシップの欠如が組織を荒廃させ 国民に不利益を強いています(フォロワーシップについては 今日更新したホームページの月刊コラム7月号「組織の活性化を阻害するもの-魅力的なリーダーは能動的なフォロワーがつくる」 http://www.well-be.net/ をご覧ください)。
あわせて 舛添要一厚生労働大臣が 党執行部に転出する とのうわさも流れています。
そこまでやるなら 厚生労働大臣のポストに 政治は素人ではあっても 国民目線で行動力のある新鮮な人材を登用してはいかがかと思います。
たとえば 高齢社会を良くする女性の会代表の樋口恵子さん いや もっと現場をよくご存知の訪問ボランティアナースの会キャンナス代表の菅原由美さんがいいのでは など妄想してしまいました。
いずれにしても われわれ自身が「よきフォロワー」とならなければ 社会保障も日本全体も活性化はしないのですから。

2009年6月29日月曜日

在宅医も変わっている

27・28の両日 パシフィコ横浜で 日本在宅医療学会学術集会が開催され 「在宅でできる!」というテーマのもと 多くの在宅医療にかかわる関係者が参加し 熱のこもった発表や討議が繰り広げられました。
土曜日の集会の後懇親会に参加したおり 医師の方々から現在の介護や在宅生活の在り方・課題について意見を求められました。正直なところ これまでは在宅医とはいっても あいも変わらず疾病のことしか見ていない医師が多く「利用者の生活継続など眼中にないのでは」とがっかりさせられることも多かったのですが 認識を新たにさせられました。
きっと みなさんの周りにも そんな視点で生活者の在宅継続に意を注いでいる医師は少なくないはずです。
「敷居の高さ」に躊躇していては 介護側の怠慢といわれてもしょうがありません。
一歩踏み出し 声を掛けてみてください。
ネットワークをつくるのは 誰かを待っているのではなくみなさんが 小さな勇気を持つことから始まります。

2009年6月24日水曜日

審議会にも政治家の出席を

先ほど 第64回社会保障審議会介護給付費分科会が終了しました。議論の中心は「経済危機対策」とりわけ「介護職員処遇改善交付金」でした。
保険者の委員である山本文男氏(福岡県添田町長)からは「この交付金が終了する2012年度以降について どう考えているのか。これが恒常化すると当然保険料にはね返ってくる。それでは住民が納得しない」という意見が述べられました。
事業者側からも12年度以降交付金として存続するのかどうかは 大きな問題です。一度上げた賃金を3年後に「はいおしまい」とはできません。とりわけ「キャリアパス」を示せという要件がある以上 単に一時金として手当てはしたくはありません。
厚労省からの回答は「2012年度の報酬改定や法改正の過程で検討する」というものでしたが これでは答えになっていません。役人としては これ以上踏み込んだ発言ができないのはわかりますが このようなやり取りは日常茶飯事です。
責任が政治にあるのなら このような審議会には 大臣とはいいませんが 副大臣や大臣政務官が出席して答弁すべきでしょう。厚労省の分割を議論する前に 肩書きだけの政治家に官僚なみに働いてもらいましょう。

2009年6月23日火曜日

市民・行政・事業者は同じ地平に立っている

20日「介護事業者は厚生労働省とどう付き合えばいいのか」セミナー終了後 厚労省の官僚3名の方々を交え懇親会を行いました。「セミナーのテーマである官僚との付き合い方の教材になってください」という私の失礼なお願いにも 快く応じていただいて恐縮しています。
「社会保障の改革の中では 年金ではなく医療・介護こそが喫緊の課題。そのために力を尽くしたい」という I課長補佐の言葉に力を得た思いです。
「国会対応」に忙殺されながらも 理想を抱いて仕事を続けている官僚と私たちは たとえ意見の相違があったとしても 議論を戦わせながら 同じ地平によって立つ「同志」として 個人と社会の幸せの実現に向けて手を携えていけると感じました。

2009年6月19日金曜日

サービスの質を明確化するのが急務

18日またまた「社会保障改革推進懇談会」の最終報告書が(ひっそりと!?)まとまりました。この懇談会は「社会保障国民会議」の提言のフォローアップを行うために設けられたものです。
社会保障国民会議は 年金・医療・介護・次世代育成など社会保障を横断的に議論し さらには財源にも踏み込んだ 画期的のある提言を行っています。同懇談会では 提言以降のロードマップが具体化されるのではないかと ひそかに期待をしていたのですが 現状追認の記述が多く 肩透かしをくらいました。
ただし 報告書中の以下の記述には共感を覚えました。
「介護労働者の処遇向上は それ自体が目的ではなく 利用者にとっての介護サービスの質の向上に結びつかねばならないことは当然である。しかし 処遇向上をサービスの質の向上にどのように結びつけていくか 必ずしも明確な道筋が明らかになっているとはいえない。ここでも客観的なデータの蓄積と課題の抽出 それに裏打ちされた政策展開が求められる。現時点で取り組むべき課題としては 少なくとも以下が考えられる。
①介護サービスにおける「質」の意義の明確化と標準化の推進
……」
職員の経験年数や介護福祉士・常勤職員割合がサービスも質を担保し それによって顧客は高い料金をはらっても当然だという根拠のない仕組みは 早急に改善すべきです。

2009年6月17日水曜日

お題目ではなく目に見える安心社会創造の論争を

15日 政府の「安心社会実現会議」(座長・成田豊電通最高顧問)は 首相官邸で第5回の会合を開き「安心と活力の日本へ」と題した最終報告書を麻生首相に提出しました。報告書は「日本型の自由市場経済モデル」の構築を前提にした「中福祉・中負担」社会の実現が色濃く打ち出されています。
「安心社会の実現」というテーマに反対する国民はいないと思われますが この種の提言や報告に食傷気味なのは 私だけではないでしょう。昨年来「安心と希望の介護ビジョン」「5つの安心プラン」「社会保障国民会議報告」など どれも時の総理や厚生労働大臣の肝いりでまとめられたものばかりですが それぞれどんな違いがあるのか理解している人はどれくらいいるのでしょうか。
私たちが求めているのは 空疎な選挙公約ではありません。「甘い幻想のバラマキ」で「安心」するほど 国民は愚かではありません。
来るべき総選挙では 賢明な選択肢を 目に見える形(ロードマップ)で示してくれる政策論争を切望しています。